収益物件プライシング

収益物件| コレクティブハウス

(C)収益物件プライシング手法

〜Discounted Cash Flow Method、Residual Income Model〜

収益物件| コレクティブハウス

(C)
収益物件
プライシング手法

〜Discounted Cash Flow Method、Residual Income Model〜

(C-1)収益不動産価値と企業価値算定の3手法

収益不動産価値算定方法の理解を助けるために、ここでは企業価値算定と並列に整理してみましょう。

収益不動産と企業価値の算定方法はほぼ同じ3つの類型に分類されます。
収益不動産で賃料を得ることのみをビジネスとして行っている企業は、一般の大家さんと本質的には変わりはありません。
ですので、不動産投資着手は、賃貸事業のみを収益源としている企業を買収すること(M&A)、あるいは賃貸事業のみを業として新規事業を起こすこと(インキュベーション:起業)と同じということになります。

価値算定(プライシング)の方法について以下のように整理しました。

(なお、不動産投資の説明を主題としているため、企業の非事業性資産の算定等の議論は除いて「事業価値=企業価値」と仮定して記述しています。)

アプローチ種別企業価値算定方法収益不動産価値算定方法考え方
コストアプローチ・簿価純資産法
・時価純資産法
・原価法企業価値算定の場合は、会計上の簿価を基に純資産額を求める「簿価純資産法」と、資産・負債のすべてを時価に洗い替えして求める「時価純資産法」があります。また収益不動産の場合も、土地・建物の簿価そして時価から価格を割り出すことがあります。
マーケットアプローチ・類似会社法
・市場株価法
・事例比較法企業の場合は、近しい収益構造、ビジネスモデルを持つ他社の株価(時価総額)から企業価値を比準して求めたり、収益不動産の場合は、近隣地域、同様の建築構造、部屋割りを持つ類似収益物件の最近の取引価格から比較して求める方法です。
インカムアプローチ・DCF(Discounted Cash Flow)法
・配当還元(Dividend Discout Model)法
・リアル・オプション法
・DCF(Discounted Cash Flow)法
・収益還元法
・リアル・オプション法
企業または収益不動産が稼ぎ出すと期待される時系列の利益(フリーキャッシュフロー:FCF等)を予想し、将来の不確実性と時間を加味して割り引いた上で合算して、企業価値または収益不動産価値を求める方法。
リアル・オプション法は、DCFを出発点としながら、オプション価値も包含する考え方に基づきます。

(C-2)収益不動産価値算定手法の特徴

名称価格算定方法
原価法土地仕入・造成・建築した場合の原価合計で不動産価格を算定する方法で、供給者側の論理です。
原価だけの視点なので、これから取り組んでいくビジネスの観点が欠けています。
取引事例比較法近隣の類似不動産の取引データから比準してどの位の不動産価値があるか?を割り出す方法。
不動産は、個々の物件による特殊要因が非常に大きく、類似データ数も少なく、かつ古い場合があり、適用が難しいこともあります。
DCF法、収益還元法
Discounted Cash Flow Method
今後いくら儲かる(収益)という視点なので、賃貸ビジネス総体としての価値を最も適切に表わすことができます。
「還元」という言葉は、まず、元となる収益不動産への投資があってはじめてその後の果実(賃料収入)が生まれるわけですが、逆に将来の果実(賃料収入)の価値から元の収益不動産の投資価値に戻す(逆算推定)ことから使われています。
ダイナミックDCF法
Dynamic DCF Method
普通のDCF法は、将来得られるであろう収益を1本の固定シナリオとして描きこれを現在価値に引き直すものですが、ダイナミックDCF法は、収益予想にパラメータや確率分布を組み込んで収益予想のための数学モデルを作り、モデル中の多数の将来シナリオを生起確率で加重平均するなどして求める方法です。
ランダムなシナリオ作成のためにモンテカルロシミュレーションも用いられることがあります。
確実性等価法
Certainty Equivalent Method
将来得られるであろう期待収益から当該不動産投資に掛かるリスクプレミアム分の収益を差し引いた収益流列をリスクフリーレートで割り戻して、収益物件価格を算定する方法。普通の収益還元法は、投資によって得られる期待収益を分子にして、リスクを勘案した分母の割引率で還元するもの(リスク調整を主に分母で行う)ですが、リスクなしで得られる確実性等価(Certainty Equivalent)分の収益を適切な方法で割り出すことができるなら、リスクプレミアム分を含んだ割引率など用いなくとも単にリスクフリーレートで還元して物件価格を求めることができるではないか、という考え方(リスク調整を分子で行う)に基づいています。
リアル・オプション法
Real Option Valuation
これまで金融資産評価の為に用いられてきたオプション理論を企業価値評価に応用したものがリアル・オプション法です。企業が経営環境の変化に応じてビジネスモデルを適切に変えていく選択肢を持っていて、この柔軟性自体に価値があるという考え方に基づいています。賃貸ビジネスも全く同じで、大家さんは収益アップにつながる変更を加える選択肢=オプション価値を保持しているのです。
不動産評価にリアル・オプションを用いるなどのアイデアは、聞くことが少なく、あまり一般的ではないかもしれませんが、現実の投資パフォーマンスにこのオプション価値が大きな影響を及ぼしていると当社は考えています。(最たる例:ボロ物件投資法などで、激安不動産を高利回り物件へ生まれ変わらせる手法を知っている投資家はリアルオプション価値を体で感覚的に理解しているのです。)
なお、このオプション価値の計算法の類型は大きく3種あり、①解析的に解いていくブラック=ショールズ・モデル、②数値的解法の格子モデル及び③非解析的なモンテカルロ・シミュレーション(ただし、ブラック=ショールズ・モデルや格子モデル等が計算過程に用いられる)に分けられます。

~~~DCF法:余談ですが~~~


例えがあまり良くありませんが、にわとりと卵の例を借りますと、まず最初ににわとりを購入し、毎日餌をあげて卵を売って収入を得るのが順番ですが、そのにわとりの購入価格は、将来得られるであろう卵という時系列の収益にわとりそのものを転売した時の売却代金総和を予想して値付けされるはずです。
ただし、時系列(日々)で受け取れるであろう卵の代金は、時間的に遠くなればなるほど実現しない不確実性(卵を産まなくなる)を孕んでくるので、将来的に期待できる収益に時間リスク(病気など)を合算加味した割引率を掛けることで、現在の金銭価値と同値の価格を得るのです。

この比喩の場合、にわとりが収益不動産(アパート・マンション)で、餌が賃貸営業費用、時系列で産出される卵が賃料収入に相当しますが、最初ににわとりを買うときの価格算定は、期待できる卵の時系列売却収入とにわとり転売収入(いずれも営業費用・税金等控除後)の現在価値を総和して求めるのが妥当である、ということですね。

また、にわとり(=収益物件)を飼育している間の卵の収入(=賃料収入)を現在価値に割引く時に使うのがいわゆるキャップレートで、にわとり転売以降の卵の収入(=賃料収入)を永久還元法で割り引くときに使うのがターミナルキャップレートということになります。

しかし、にわとりは寿命がありますし、収益不動産も現実的には同じことが言えますので、永久還元法を意味を咀嚼せずに乱暴に使う営業マンには要注意ということが分かりますね。また、付け加えると卵などの売却収入は、不確実性下の予想収益なので実現するまで分からない「確率変数」であるということです。

鶏とDCF法の関係図

(C-3)将来収益の定義

上で将来収益の流列を現在価値に割り戻して足し上げるのが、最も論理的で受け入れられやすいプライシング手法であると説明しましたが、ではその将来収益はどのように求めたら良いでしょうか?

⇒将来収益を見積もるための定義はいくつもありますので、ご自分の目的(自分という投資主体を考慮せず収益不動産そのものの価値を客観的に見出したいとき、自身がその不動産投資を実行した場合の投資価値を見出したいとき)によって、最も合致する方法を選ぶ必要があります。

以下に、種々の将来収益の定義を載せておきます。

(なお、不動産投資を主題にしているため、下ではInterestのうち支払利息のみを念頭に受取利息を考慮外として扱っています。)

①満室想定賃料収入(Gross Potential Income)

賃貸経営分析に必要なデータが大量に欠けているので、この満室賃料の収益流列を割引率で還元した投資不動産価格は殆ど参考程度にとどめた方が良いでしょう。

②実効総収入(Effective Gross Income)= 満室想定賃料-空室損失-滞納損失

損失見積が楽観的過ぎると割高になりますし、保守的過ぎるとせっかくの投資チャンスを逸してしまうことにもなります。鉛筆を舐めるのでなく参考にできるデータを収集し、できるだけ現実的な想定を行うようにしましょう。これは下の③以下にも当てはまります。

③NOI = 満室想定賃料-空室損失-滞納損失-管理運営費

この場合の収益が一般に言われるNOIで、空室損失等を加味した賃料収入等から営業費用を差し引いて算出します。不動産業界でよく用いられています。なお、NOIに含めない支出項目としては、収益物件に直接的な関連性がないとして「銀行ローン元利返済分」「固都税以外の税金」「物件取得費用」「付加価値向上のための増改築工事費」「減価償却費」等が挙げられます。

④キャッシュフロー(CF) = 利払・税引前利益-支払利息-税金+減価償却費±運転資本等の増減
[”Operating” Cash Flow(CF)=EBIT – Interest – Taxes + Depreciation & Amortization ± ΔWorking Capital]

通常の営業活動によるキャッシュフローを示し、間接法で計算する場合上式のように算出します。最初にEBIT(Earnings Before Interest, Taxes)つまり支払利息と税金の影響を除いた利払・税引前利益を計算します。このEBITから支払利息と税金を引いて純利益(Net Income = EBIT – Interest – Taxes)を求め、次に現金出費を伴わない減価償却費(Depreciation & Amortization)を足し戻し、更に日々の事業活動を行う上で必要となる資金(Working Capital )の増減を加えます。

なぜ、経常利益でなくEBITを使うか?と言いますと、個々の企業(個人事業者、不動産投資家)によって、実効税率も借入金利も異なってきますので、この影響を排除すれば当該企業(賃貸事業)の純粋な利益獲得能力が測れるからです。会計方針や資本構成に関係なく純粋な当該事業の稼ぐ力にフォーカスできるからです。

⑤フリーキャッシュフロー(FCF) = 利払・税引前利益-支払利息-税金+減価償却費±運転資本等の増減-資本的支出
[Free Cash Flow(FCF)=EBIT – Interest – Taxes + Depreciation & Amortization ±ΔWorking Capital – CapEx]

会社(事業者、経営者)が自由に使えるキャッシュと言う意味で「フリー」と言っています。一般的な言い回しとして「債権者と株主に帰属するキャッシュ」などという説明があります。しかしながら、確かに債権者もフリーとなったキャッシュを得ることができる可能性はありますが、あくまでも会社経営陣(あるいは不動産投資家)がイニシアチブを持って自由(随意)に使うことができるのであって、債権者が自由に追加返済を要求できるわけではないので、「フリー」の元の意味を把握しておきましょう。また、不動産投資家でなく所有と経営が分離されている会社の場合はエクイティ出資者でも勝手に配当を得ることはできません。

また、「フリーキャッシュフロー=EBIT×(1-税率)+減価償却費-設備投資等±運転資本」の計算式が示されている場合が多数ありますが、これですと利払・税前利益に(1-税率)を掛けているので税金は払っても支払利息が残存しているような受け取り方もできるので、支払利息が判然とせず、この式はあまりクリアーな説明ではなくなってしまいますので要注意です。

経営者が配当しても良いし債務返済しても良い自由な資金とは、ローン契約で事前に債権者へ約束していた利息(Interest)を支払後の話のはずですよね。

なお、FCFを現在価値に割り戻す時の割引率は、WACCがベースとなります。

⑥株主にとってのフリーキャッシュフロー(FCFE) = 利払・税引前利益-支払利息-税金+減価償却費±運転資本等の増減-資本的支出-負債の返済+新規借入額
[Free cash flow to equity(FCFE) = EBIT – Interest – Taxes + Depreciation & Amortization ±ΔWorking Capital – CapEx ± Net Borrowing]

上の⑥の計算式右辺をご覧下さい。債権者に支払うべきinterest(支払利息)をきちっと支払った後でかつ、負債の返済(元本返済)や新規借入額も勘案されているので、エクイティ出資者(不動産投資家)にとって利用可能なフリーキャッシュフローということになります。”to”でなくてFCFE(Free Cash Flow for Equity)と言う場合もあります。

このFCFEは、当該投資プロジェクト(投資案件)のエクイティ価値の評価に使われます。アパートやマンションへの投資では、借入元本の支払はREITなどの機関投資家を除き月々必要となってきて、同じ物件に後から追加で融資を受けることは少ないとして、同一物件への将来の新規借入額を無しと仮定しますと、FCF(フリーキャッシュフロー)から元本返済分をさらに差し引くことでFCFEは求められます。不動産投資は投資家によって資本構成が異なりますし、またローン返済の経時的変化も資本構成に影響を与えることから、FCFEの現在価値総和(=エクイティ価値)を投資判断に用いることができると考えています。

例えば、(a)FCFEの割引現在価値総和と(b)収益不動産売値から銀行融資予想額を差し引いた価値をそれぞれ計算し、もし(a)>(b)のときは投資に値するなどの判断に利用できそうです。

なお、FCFEを現在価値に割り戻す時の割引率は、株主資本コスト(自己資本コスト)がベースとなります。

⑦株主&債権者にとってのフリーキャッシュフロー(FCFF) = 利払・税引前利益-税金(借入による節税効果なしの)+減価償却費±運転資本等の増減-資本的支出
[Free Cash Flow to Firm(FCFF) = EBIT – Hypothetical Taxes( non benefit of a tax shield) + Depreciation & Amortization ±ΔWorking Capital – CapEx]

エクイティ投資家とデット投資家をひっくるめた会社全体(Firm)にとって利用可能なフリーキャッシュフローという意味で、⑤のFCF(事業者や経営者が自由に使える資金)との差異は「支払利息を参入しないこと」と「借入による節税効果なしの税金を支払うこと」の2点となります。このことから、FCFFはUnlevered Free Cash Flow(UFCF)とも呼ばれます。支払利息なしと仮定することで、借入金利の利率資本構造の違いが将来収益に与える影響を取り除くことができ、あたかもエクイティ投資家の自己資金のみで収益物件を購入したか(あるいは借金ゼロの会社)のようなキャッシュフローが計算できることになります。

なお、支払利息なしを仮定しているだけでデット投資家は存在するわけですから、FCFFを現在価値に割り戻す時の割引率は、WACCがベースとなります。

⑧確実性等価(Certainty Equivalent)収益

上記⑤のフリーキャッシュフローは、リスク資産全体から生じる果実(収益)です。
このリスク資産から得られる収益による効用と同じ効用を持つ無リスク資産の収益を確実性等価(Certainty Equivalent)と呼びますが、これをリスクフリーレートで割り戻せば、収益物件価格となります。
この確実性等価(Certainty Equivalent)の具体的な求め方の一例としては、当該収益物件の地域の賃料モデルを作成し、満室稼働間違いない圧倒的価格競争力のある賃料を見出し、賃料収入を見積もるなどの方法が考えられます。

また、リスク資産の期待収益と確実性等価(Certainty Equivalent)の差分がリスクプレミアムとなりますが、このリスクプレミアムを推計する別のアプローチとして下記のようなCAPM(Capital Asset Pricing Model)を用いる方法があります。
下記式中のパラメータを上手く推計できるなら、CAPMでもCertainty Equivalentな収益が求められることになります。

$$\begin{eqnarray}E(R_{j})-R_{f}&=&\{E(R_{M})-R_{f}\}\frac{cov(R_{j},R_{M})}{\sigma^{2}(R_{M})}\\&=&\{E(R_{M})-R_{f}\}\beta_{j}
\quad ・・・(1)式
\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}&&E(R_{j})-R_{f}\\&=&\{E(R_{M})-R_{f}\}\frac{cov(R_{j},R_{M})}{\sigma^{2}(R_{M})}\\&=&\{E(R_{M})-R_{f}\}\beta_{j}
\\[2mm]&&\quad ・・・(1)式
\end{eqnarray}$$

\(E(R_{j})\) :収益物件\(j\)の期待リターン
\(E(R_{M})\) :市場ポートフォリオの期待リターン(市場ポートフォリオは、不動産市場に存在する資産に限定するものではなく、有価証券、貴金属、仮想通貨等、すべての危険資産を含むものです。なぜなら人は個別市場にこだわらずに市場横断的な投資行動をとるからです。
\(R_{f}\) :リスクフリーレート(無リスク資産の収益率)
\(cov(R_{j},R_{M})\) :収益物件\(j\)と市場ポートフォリオのリターンの共分散
\(\sigma^{2}(R_{M})\) :市場ポートフォリオ・リターンの分散
\(\beta_{j}\) :収益物件\(j\)のベータ値

(C-4)収益物件プライシング手法の基礎的な考え方

無限等比数列の和

高校数学にありました無限等比数列の和がDCF法、還元法による収益不動産の価格付けの基の考え方です。
公比\(r\)が、\(-1<r<1\)のとき、下記(4)式のように等比数列の和は収束するのでした。

$$a_{n}=ar^{n-1}\quad ・・・(2)式$$

\(a\) :初項
\(r\) :公比

等比数列(2)の初項から第\(n\)項までの和\(S_{n}\)は\(r\neq1\)のとき

$$S_{n}=\frac{a(1-r^n)}{1-r}\quad ・・・(3)式$$

で表されます。

では、\(|r|< 1\)のときに、第\(n\)項まででなく、無限に足したらどうでしょう?

$$\lim_{n \rightarrow \infty}S_{n}=\frac{a(1-0)}{1-r}=\frac{a}{1-r}\quad ・・・(4)式$$

$$\begin{eqnarray}\lim_{n \rightarrow \infty}S_{n}&=&\frac{a(1-0)}{1-r}\\&=&\frac{a}{1-r}\quad ・・・(4)式\end{eqnarray}$$

\(r^n\)は無限に掛ければゼロとなるので(4)式に収束します。

永久債の価格

毎年A円を永久に支払う永久債があり、利子率(年利\(r\)%)とすると、この債券の現在価値は(5)式の通りとなります。

$$\frac{A}{1+r}+\frac{A}{(1+r)^2}+\frac{A}{(1+r)^3}+\frac{A}{(1+r)^4}+\cdot\cdot\cdot\quad ・・・(5)式$$

$$\begin{eqnarray}&&\frac{A}{1+r}+\frac{A}{(1+r)^2}+\frac{A}{(1+r)^3}\\&&+\frac{A}{(1+r)^4}+\cdot\cdot\cdot\quad ・・・(5)式\end{eqnarray}$$

(5)式は、初項が\(\frac{A}{1+r}\)で公比が\(\frac{1}{1+r}\)の無限等比数列ですから(4)式の公式にあてはめ、

$$\frac{\frac{A}{1+r}}{1-\frac{1}{1+r}}=\frac{A}{r}\quad ・・・(6)式$$

結局、この永久債の現在価値(価格)は(6)式の通りとなります。

永久還元法、直接還元法

毎年B円の純収益を永久に稼ぎ出す収益不動産がある(割引率:年利\(r\)%)とすれば、その物件の価格は(3)式となり、永久債の場合と全く同じロジックです。

$$\frac{B}{1+r}+\frac{B}{(1+r)^2}+\frac{B}{(1+r)^3}+\frac{B}{(1+r)^4}+\cdot\cdot\cdot\quad ・・・(7)式$$

$$\begin{eqnarray}&&\frac{B}{1+r}+\frac{B}{(1+r)^2}+\frac{B}{(1+r)^3}\\&&+\frac{B}{(1+r)^4}+\cdot\cdot\cdot\quad ・・・(7)式\end{eqnarray}$$

$$\frac{\frac{B}{1+r}}{1-\frac{1}{1+r}}=\frac{B}{r}\quad ・・・(8)式$$

まさにこれが収益不動産の永久還元法または直接還元法の根源的な論理なのです。
収益不動産の営業マンが、「単なる割り算」で顧客にアドバイスすることもありますが、背景はアパート・マンション事業を前提とした場合にとても現実的でない無限等比数列が存在しているのです。
「還元利回り5%で20年間で元が取れます」「20年我慢すれば、お客様自身のものになりますよ」など、長期のリスクを考慮すればまず厳しい話だということに気付かなくてはなりません!
収益不動産価格を決定しているパラメータがきちんと説明されない場合、人生を左右するほどのすごく危険な投資話ということに成りかねません。
株式・債券投資に比べ、レバレッジが高く、金額も高額で、債務超過になっても銀行から追証も要求されず、ロスカットもされない不動産投資は、たった1回のトレードが個人の財務に莫大な悪影響を与える危険性があります。

逆に、投資シミュレーションを精密に行い、フェアバリューよりも安く購入した場合は、短期間で普通は考えられない多額の富をもたらす場合もあります。

不動産業界では一般に、(8)式分子Bに「純収益NOI」を、分母\(r\)に「永久還元利回り=割引率(成長率\(g\)なしの場合)」を当てはめて価格推定することを永久還元法と呼んでいます。これだと微妙なさじ加減でどんな価格でも作れますよね?!

一番ベーシックな永久還元法(直接還元法)による収益物件のプライシング(価格付け)の考え方について、「純収益を割引率で割るとどうして収益不動産価格になるのか?」と理由を担当営業マンに聞いてみましょう。
収益物件担当営業マンや宅地建物取引士が土地・建物の取引に長い経験を持つプロであったとしても、投資理論について知見があるかどうか?は分かりません。

DCF法(Discount Cash Flow Model)

収益不動産から産み出される投資予定期間中の各年度のフリーキャッシュフローを予測し、これらを現在価値に割り戻した金額を合計し、価格算定を行う方法。

収益不動産から産み出される投資予定期間中の各年度の
フリーキャッシュフローを予測し、これらを現在価値に割り戻した金額を合計し、価格算定を行う方法。

$$PV=\sum_{t=1}^n\frac{FCF_{t}}{(1+r)^t}\quad ・・・(9)式$$

\(PV\) :収益不動産(アパート,マンション)価格、Present Value
\(FCF_{t}\) :\(t\)期のフリーキャッシュフロー
\(r\) :割引率

(9)式の最終項をその年度の賃料収入等に関わる部分と売却価格(Resale Value)に分けて記述すると(10)式となります。

$$PV=\sum_{t=1}^n\frac{FCF_{t}}{(1+r)^t}+\frac{RV}{(1+r)^n}\quad ・・・(10)式$$

$$\begin{eqnarray}PV&=&\sum_{t=1}^n\frac{FCF_{t}}{(1+r)^t}\\&&+\frac{RV}{(1+r)^n}\quad ・・・(10)式\end{eqnarray}$$

更に(10)式の最終項の物件転売価格を\(n+1\)期つまり、投資期間\(n\)期終了後の翌期のFCFを永久還元法で割り引くヴァージョンが以下の(11)式となります。(なお、(10)式の\(\sum\)記号を外して記述します。)

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r}+\frac{FCF_{2}}{(1+r)^2}+\frac{FCF_{3}}{(1+r)^3}\\[5mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r)^n}+\frac{FCF_{n+1}}{rt}\quad ・・・(11)式\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r}+\frac{FCF_{2}}{(1+r)^2}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{3}}{(1+r)^3}\\[2mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r)^n}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{n+1}}{rt}\quad ・・・(11)式\end{eqnarray}$$

\(FCF_{n}\) :\(n\)期に予想されるフリーキャッシュフロー(期待値)
\(r\) :運用期間中の割引率(キャップレート)
\(r_{t}\) :運用期間後の割引率(ターミナルキャップレート)

更に(11)式の最終項に\(n\)期以降のFCFが一定の成長率\(g\)を持つという仮定を組み込んでみましょう。すると(11)式の最終項は(12)式の最終項に変わります。収益不動産の場合、経年劣化等から\(g\)は通常マイナスの符号になるのではないでしょうか?

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r}+\frac{FCF_{2}}{(1+r)^2}+\frac{FCF_{3}}{(1+r)^3}\\[5mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r)^n}+\frac{FCF_{n}(1+g)}{rt-g}\quad ・・・(12)式\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r}+\frac{FCF_{2}}{(1+r)^2}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{3}}{(1+r)^3}\\[2mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r)^n}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{n}(1+g)}{rt-g}\\[2mm]&&\quad ・・・(12)式\end{eqnarray}$$

\(g\) :運用期間後のフリーキャッシュフローの定率成長率(Sustainable growth rate)

次に、(11)式の金利にシナリオ(将来金利がどう変化するか?)を入れることが適当となった場合は下の式となります。

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r_{1}}+\frac{FCF_{2}}{(1+r_{1})(1+r_{2})}+\frac{FCF_{3}}{(1+r_{1})(1+r_{2})(1+r_{3})}\\[5mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r_{1})\cdot\cdot\cdot(1+r_{n})}+\frac{FCF_{n+1}}{rt}\quad ・・・(13)式\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}PV&=&\frac{FCF_{1}}{1+r_{1}}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{2}}{(1+r_{1})(1+r_{2})}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{3}}{(1+r_{1})(1+r_{2})(1+r_{3})}\\[2mm]&&+\cdot\cdot\cdot+\frac{FCF_{n}}{(1+r_{1})\cdot\cdot\cdot(1+r_{n})}\\[2mm]&&+\frac{FCF_{n+1}}{rt}\quad ・・・(13)式\end{eqnarray}$$

\(r_{n}\) :運用期間中の\(n\)期の割引率

ダイナミックDCF法

考え方の基本はDCF法と同じですが、将来の賃料変動や空室率を確率モデルで記述し(将来の不確実な事象の確率分布が分かっている時に)、モンテカルロ・シミュレーションにより多数の収益シナリオを生成させ収益不動産価格を導出する手法。単一のシナリオでは分かり得なかった収益不動産価格の取り得る値の分布状況や頻度、中央値、平均ー分散など統計的な把握が可能となる。

ただし、不動産の場合、金融モデル構築の場合と比べ圧倒的に分析対象不動産が位置する地域のヒストリカル・データが不足することが多く、モンテカルロ・シミュレーションそのものより、その前段階の各パラメータの確率分布、確率過程の推定がそもそも難題となってしまうことも考えられます。また、大規模修繕やリノベーション等を考慮しない場合は、新築を好む日本人の特性からも確率分布推定を考慮する必要があるでしょう。

リアル・オプション法

フレキシビリティを考慮しないDCF法評価額にオプション価値を追加して、収益物件価格を計算する方法です。

なお、オプション価値算定の主な方法として、以下のような解析的解法のブラック=ショールズ・モデルと数値的解法の二項モデルの算出方法を載せておきます。

汎用ブラック=ショールズ・モデル

$$C=e^{-qt}SN(d_{1})-e^{-rt}KN(d_{2})\quad ・・・(14)式$$

$$\begin{eqnarray}C&=&e^{-qt}SN(d_{1})\\[2mm]&&-e^{-rt}KN(d_{2})\\[2mm]&&\quad ・・・(14)式\end{eqnarray}$$

$$d_{1}=\frac{Ln\left( \frac{S}{K}\right)+\left( r-q+\frac{1}{2}\sigma^2\right)t}{\sigma\sqrt{t}}\quad ・・・(15)式$$

$$\begin{eqnarray}&&d_{1}\\[2mm]&&=\frac{Ln\left( \frac{S}{K}\right)+\left( r-q+\frac{1}{2}\sigma^2\right)t}{\sigma\sqrt{t}}\\[2mm]&&\quad ・・・(15)式\end{eqnarray}$$

$$d_{2}=d_{1}-\sigma\sqrt{t}\quad ・・・(16)式$$

$$\begin{eqnarray}d_{2}&=&d_{1}-\sigma\sqrt{t}\\[2mm]&&\quad ・・・(16)式\end{eqnarray}$$

\(C\) :コールオプション価格
\(e\) :自然対数の底
\(q\) :原資産利回り(≒還元利回り)
\(t\) :期間(投資予定期間)
\(S\) :原資産価格(≒アパート・マンションなどのDCF法評価額)
\(N(d)\) :標準正規分布の確率累積密度関数

$$N(x)=\int_{-\infty}^{x} \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{1}{2}x^2}dx\quad ・・・(17)式$$

$$\begin{eqnarray}&&N(x)\\[2mm]&&=\int_{-\infty}^{x} \dfrac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{-\frac{1}{2}x^2}dx\\[2mm]&&\quad ・・・(17)式\end{eqnarray}$$

\(r\) :リスクフリーレート
\(\sigma\) :原資産価格のボラティリティ(≒アパート・マンションなどの評価額の標準偏差)
\(K\) :行使価格(アパート・マンションなどの収益不動産購入価格)

二項モデル

リスク中立確率アプローチによって、以下の4段階の計算プロセスを踏んで、収益不動産価格の算定を行う場合があります。

①DCF法によって経営のフレキシビリティを考慮しないベース・ケースの現在価値を計算
②イベント・ツリーを用いて不確実性のモデル化を行う。
③経営上のフレキシビリティを反映させたディシジョン・ツリーの作成
④リアル・オプション分析

上記③のディシジョン・ツリー作成時のオプション価格は以下の通りとなります。

$$\begin{eqnarray}&&リアルオプション価格\\[2mm]&=&MAX\left[(S-K),\{pCu+(1-p)Cd\}e^{-rf}\right]\quad ・・・(18)式\end{eqnarray}$$

$$\begin{eqnarray}&&リアルオプション価格\\[2mm]&=&MAX\left[(S-K),\\\{pCu+(1-p)Cd\}e^{-rf}\right]\\[2mm]&&\quad ・・・(18)式\end{eqnarray}$$

\(S\) :原資産価格(≒DCF法評価額)
\(K\) :初期投資額(収益不動産購入価格)
\(p\) :リスク中立確率(自然確率でなく、資産の期待収益率がリスクフリーレートと同値となる場合の確率)
\(C_{u}\) :1期先の運用好調時のコールオプション価格
\(C_{d}\) :1期先の運用不調時のコールオプション価格
\(rf\) :リスクフリーレート

残余利益モデル(Residual Income Model、Excessive Income Model、EBO model)

配当割引モデル(Dividend Discount Model)

負債を含めた企業価値全体を求める際に上記(9)~(13)式のようなDCFモデルを用いたり、企業の株式価値のみを求める際に配当割引モデル{以下DDMと呼ぶ。(19)式}を用いたりします。しかし、DCFモデルはフリーキャッシュフローを予測するのが困難で、DDMも配当額が経営者のその時々の意向に左右されてしまうことから予測困難という難点があります。これを克服するために、DDMにいくつかの条件を追加して残余価値モデルを導出することがあります。この残余価値モデルを使って、収益不動産を賃貸事業のみ営む一つの企業とみなして、収益不動産のエクイティ価値(銀行等の債権者の分を除いて不動産投資家が保有する価値)を割り出すことができる可能性があります。

$$V_{equity,t}=\sum_{t=1}^\infty(1+k)^{-\tau}E(\widetilde{d}_{t+\tau})\quad ・・・(19)式$$

$$\begin{eqnarray}&&V_{equity,t}\\[2mm]&&=\sum_{t=1}^\infty(1+k)^{-\tau}E(\widetilde{d}_{t+\tau})\\[2mm]&&\quad ・・・(19)式\end{eqnarray}$$

\(V_{equity,t}\) :企業の株式価値
\(\widetilde{d}_{t+\tau}\) :\(t+\tau\) 時点に支払われる配当
\(k\) :資本コスト
\(E(\cdot)\) :\(t\)時点の情報に基づく期待配当額

クリーン・サープラス関係(clean surplus relations)

下の(20)式は、t期末の純資産簿価がt期の利益からt期の配当を差し引いた内部留保と前期純資産の和に等しいというクリーンサープラス関係を示しています。

(21)式は、純資産額を配当で微分(偏微分)したときに-1というのは、配当と同額分だけ純資産が減少、(22)式は配当で偏微分してもゼロということは会社の利益は配当に影響されないという仮定(前提)です。

$$b_{t}=b_{t-1}+x_{t}-d_{t}\quad ・・・(20)式$$

$$\begin{eqnarray}b_{t}&=&b_{t-1}+x_{t}-d_{t}\\[2mm]&&\quad ・・・(20)式\end{eqnarray}$$

$$\frac{\partial b_{t}}{\partial d_{t}}=-1\quad ・・・(21)式$$

$$\frac{\partial x_{t}}{\partial d_{t}}=0\quad ・・・(22)式$$

\(x_{t}\) :\(t\) 期の会計利益
\(b_{t}\) :\(t\) 期末の純資産簿価
\(d_{t}\) :\(t\) 期の配当

残余利益モデル(Residual Income Model、Excessive Income Model)

DDMの(19)式に(20)~(22)式の仮定を加えて、更に残余利益を(23)式のように定義しますと、最終的に(24)式の残余利益モデルが導出できます。

$$x_{t}^{res}=x_{t}-kb_{t-1}\quad ・・・(23)式$$

$$\begin{eqnarray}x_{t}^{res}&=&x_{t}-kb_{t-1}\\[2mm]&&\quad ・・・(23)式\end{eqnarray}$$

$$V_{equity,t}=b_{t}+\sum_{\tau=1}^\infty(1+k)^{-\tau}E(\widetilde{x}_{t+\tau}^{res})\quad ・・・(24)式$$

$$\begin{eqnarray}&&V_{equity,t}\\[2mm]&&=b_{t}+\sum_{\tau=1}^\infty(1+k)^{-\tau}E(\widetilde{x}_{t+\tau}^{res})\\[2mm]&&\quad ・・・(24)式\end{eqnarray}$$

\(V_{equity,t}\) :\(t\)期末の企業の株式価値(収益不動産の債権者保有分を除いた投資家分の価値)
\(b_{t}\) :\(t\) 期末の純資産簿価
\(k\) :株主資本コスト(不動産投資家の要求収益率)
\(E(\widetilde{x}_{t+\tau}^{res})\) :\(t+\tau\)期の残余利益の期待値。なお残余利益は(23)式の通り。

この残余利益モデル(24)式から言えることは、仮に\(k\)を現時点の株主資本を維持するのに必要な費用とすれば、収益不動産購入の場合、不動産投資家の投下資金を将来に亘って減らすことも増やすこともない\(k\)と考えることができると思います。

建物を含む不動産投資の場合、どうしても建物価値の減価は避けられませんので、株主資本を維持するための\(k\)と定義するならこの\(k\)に建物価値減価分のリスクプレミアムを加算しなければなりません。

詰まるところ、(24)式は将来期待できる残余利益をこの\(k\)で割り引いた金額の総額と当期末純資産簿価の合計額が、投資家保有分価値ということを示しています。

EVAモデル(Economic Value Added、Stern Stewart社の商標登録あり)

EVAモデルは上の残余利益モデルの事業価値版と言えます。

つまり、EVAモデルは債権者と投資家の全体に帰属する利益(NOPAT:Net Operating Profit After Tax)から期待利益額(金額ベースの”総”資本コスト)を差し引いた”残余分”の予想現在価値流列総和と現在(\(t\)時点)の事業価値簿価を合計して事業価値とするものです。利益を得るためには当然コスト(=総資本コスト)をかけているのだから、このコストを差し引いてもなお追加的に加わるであろう利益を創造できるかどうか?を評価すべきでしょ、と言うのがAddedの元の意味です。

$$y_{t}^{res}=NOPAT_{t}-WACC\times b_{asset,t-1}\quad ・・・(25)式$$

$$\begin{eqnarray}y_{t}^{res}&=&NOPAT_{t}\\[2mm]&&-WACC\times b_{asset,t-1}\\[2mm]&&\quad ・・・(25)式\end{eqnarray}$$

$$V_{t}=b_{asset,t}+\sum_{\tau=1}^\infty(1+WACC)^{-\tau}E(\widetilde{y}_{t+\tau}^{res})\quad ・・・(26)式$$

$$\begin{eqnarray}V_{t}&=&b_{asset,t}\\[2mm]&&+\sum_{\tau=1}^\infty(1+WACC)^{-\tau}E(\widetilde{y}_{t+\tau}^{res})\\[2mm]&&\quad ・・・(26)式\end{eqnarray}$$

\(y_{t}^{res}\) :\(t\)期の残余NOPAT
\(V_{t}\) :\(t\)期末の事業価値(収益不動産全体の価値)
\(b_{asset,t}\) :\(t\) 期末の事業用資産の簿価(収益不動産全体の簿価)
\(WACC\) :総資本コスト(債権者コストと投資家コストをその出資割合で加重平均したコスト)
\(E(\widetilde{y}_{t+\tau}^{res})\) :\(t+\tau\)期の残余NOPATの期待値。

(C-5)収益物件プライシング手法まとめ

モデル名主な割引率-評価対象不動産業界での割引率呼称割引対象概要
1永久還元法

直接還元法
WACC-収益物件全体還元利回り
キャップレート
満室想定賃料
純家賃収益等
現在収益(賃料)が永久に続くなど、現実的に不合理な前提条件が仮定された簡便法。賃貸事業に予想される将来の収入やコストを総括しなければならないので、本来とても難しい計算が要求されるのに、いとも簡単に数値を当てはめてしまうなど利用が乱暴となりがちなので、要注意です。
2DCF法WACC-収益物件全体キャップレート
ターミナルキャップレート
フリーキャッシュフロー将来収益の変動も加味でき、納得性のある評価が可能で、不動産投資では一般的な評価方法。しかし、毎年のフリーキャッシュフローやターミナルバリューの推定が難しい
3ダイナミックDCF法WACC-収益物件全体-業界適用例少-フリーキャッシュフローエスティメーション・ユニバースである近隣不動産のヒストリカル・データ収集が容易な地域でないとパラメータの確率分布が推定できず実行が難しい。
4確実性等価法リスクフリーレート-収益物件全体-業界適用例少-リスクフリー賃料リスクフリーとなる家賃推定が難しいことと、昨今のような異常な低金利をリスクフリーレートとして分母に用いることによる数値発散など、実用上の難点は多い。
5リアル・オプション法WACC等-収益物件全体-業界適用例少-フリーキャッシュフローDCFモデル価値に経営上のフレキシビリティによる価値を追加した方法。いわゆるボロ物件、クズ土地投資などは、このオプション価値を見いだし、バリューアップを実現できる投資家による投資手法です。
6残余利益モデル株主資本コスト-収益物件投資家保有分-業界適用例僅少-株主資本コスト控除後の純利益(会計残余利益)フリーキャッシュフローでなく、会計利益からエクイティ価値(投資家出資の株主資本価値[自己資本価値])を割り出す方法。銀行から融資金額がおおよそ提示されれば、この利益残余モデルの自己資本価値より少ない投下資金で物件購入できることが重要となります。
7EVAモデルWACC-収益物件全体-業界適用例僅少-総資本コスト控除後の残余NOPAT残余利益モデルの収益物件全体価値版と言えます。フリーキャッシュフローでなく、総資本コスト控除後NOPATから事業価値(=収益物件価値)を割り出す方法。銀行融資を利用した場合(レバレッジを用いた場合)の収益物件全体価値を求める方法です。
8FCFF評価モデルWACC-収益物件全体-業界適用例僅少-Free Cash Flow to the Firm利払いとその節税効果分を排除して債権者と投資家の両方に配分可能なフリーキャッシュフローを仮に計算すると、レバレッジ無しの”仮想”のフリーキャッシュフローが得られます。これを用いて現在価値を求めれば、レバレッジ効果に影響されない仮想的な収益物件価値(事業価値)を評価することができます。(ただし、割引率はWACCを使用)
9FCFE評価モデル株主資本コスト-収益物件投資家保有分-業界適用例僅少-Free Cash Flow to Equity家賃収入からすべての費用(利払含め)を支払い、更に債権者(銀行)に約束している元金返済分を支払った後の最終的に投資家に残るキャッシュの現在価値を合計するモデルです。ある収益不動産への適正な自己出資額はいくらか?と考慮する際には、このエクイティ評価モデルの活用が便利です。つまり、このモデルによる価値よりできるだけ少ない自己出資額(不動産投資家出資額、債権者出資額を含まない)とすべきと考えることができます。
  • 収益物件の価格算定は、不動産投資の成否に関わってくる重要作業ですので、投資家ご自身にて実行することが必要ですが、当社はこれらの計算のバックアップを申し受けます。